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モーの一族 [a r t]



  • 「ポーの一族」のきっかけは、ある日「マントを翻した吸血鬼の少年が丘の上に立っている」というイメージがわいてきたこと。そこから少しずつ、お話を考えていったんです。その頃、「コスチュームの歴史」という大きな洋書をいただいたんですね。クラシカルで素敵な衣装がたくさん載っている本を眺めていたら、「バンパネラ(吸血鬼)は年をとらないので、いろいろな時代のコスチュームを描けたら楽しいだろうな」と思って。実は私、今でもホラーやオバケ系のものは本当に苦手なんです。ただ石ノ森章太郎先生に「きりとばらとほしと」(下線引用者)という吸血鬼を主人公にしたきれいな作品があったので、怖くない吸血鬼のお話なら描けるかもしれない、と。「ポーの一族」に関しては、エドガーとアランのキャラクターがよく立ち上がってくれているので、お話を考えるのは楽なんです。2人を公園や学校に連れて行くと、勝手に動いてくれますから。バンパネラ、異端者として存在している主人公の物語なので、もし2人がどこかの人間の少年だったら、立ち上がる風景も違うものになってくるでしょう。
    「萩尾望都さんインタヴュー」(朝日新聞 2019・7・23)


  • ▢ 萩尾望都 ポーの一族展(松屋銀座8階 イベントスクエア 2019)
  • 猛暑の8月某日、貧血状態のバンパネラのようにフラフラと会場へ向かう。銀座通りは歩行者天国になっていて、「ゆかたで銀ぶら」の男女もチラホラと‥‥車道には氷柱もあった。「クリムト展」で「ポーの一族展」のチラシを入手したので、割引料金(¥900)で入場。エントランス右には清水玲子から贈られた花が飾られていた。風に揺れる白いレースのカーテンに原作の絵(1コマ)がスライドショーのように映し出され、床にはアーチ型の窓とエドガーの影が落ちている‥‥「ポーの一族」(1972)のラストで、エドガーがアランを誘う有名なシーンの再現である(冷たい風は涼しくて心地良いけれど、風の音が煩い)。カラー原画中心だった「萩尾望都原画展」(西武ギャラリー 2009)や「萩尾望都SF原画展」(吉祥寺美術館 2016)に較べると、モノクロ原画が多い。左から右へ進む順路では見開き2頁で展示されている原画を逆に観て行くことになってしまう。

    「I ポーの一族の世界」は「別冊少女コミック」(1972-76)に掲載・連載された全15エピソード、「すきとおった銀の髪」「ポーの村」「グレンスミスの日記」「ポーの一族」「メリーベルと銀のばら」「小鳥の巣」「エヴァンズの遺書」「ペニー・レイン」「はるかな国の花や小鳥」(「週刊少女コミック」(1975)に掲載)、「リデル・森の中」「ランプトンは語る」「ピカデリー7時」「ホームズの帽子」「一週間」「エディス」の原画(一部・抜粋)を発表順に展示。ところどころに切り貼りやホワイト修整もあるけれど、とても綺麗で瑞々しい生原稿である。ガラスケースに収まった「予告カット」「扉カット」などの小物には直筆で「返却希望」と書いてある。作者の絵に対する愛着・愛情が感じられる一方、もし希望しなかったら、今日まで編集部に保存されていたのだろうかという疑問も湧く。「II 宝塚歌劇の世界」には全く興味がないのでスルー‥‥「ポーの一族」の公演で着用された衣裳は撮影可だった。

    「III トーマの心臓の世界」には「トーマの心臓」(1974)の原型となった短篇「11月のギムナジウム」(1971)、絵日記風に描かれたエーリク視点の後日譚「湖畔にて」(1976) 、オスカー・ライザーの子供時代を描いた「訪問者」(1980)、なぜか「残酷な神が支配する」(1992-2001)も展示されていた。「トーマの心臓」は「萩尾望都原画展」で観たことがあるけれど、「ポーの一族」と並ぶ代表作が本展に並列されているのは意義深い。今回は読者プレゼントの貴重な「扉イラスト」8点も当選者からの好意で展示されている。1点ものの「原画」を愛読者にプレゼントするなんて今では考えられないこと。人間国宝級の萩尾望都ならば尚更である。会場内は大混雑している。男女比は1:9にも満たず、圧倒的にオバさん度が高い(出来れば少女の頃にお会いしたかった)。年齢差のある2人連れは母と娘らしい。親子2世代の萩尾望都ファンなのでしょう。詳しい方がストーリを説明しながら見て回ったり、「訪問者」の前で泣いている女性もいました。

    「IV 萩尾望都の世界」には高校3年生の頃に描いた「闇の中」、デビュー作「ルルとルミ」「ケーキケーキケーキ」「精霊狩り」「キャベツ畑の遺産相続人」「11人いる!」「メッシュ」「とってもしあわせモトちゃん」「ゴールデンライラック」「この娘うります!」「スター・レッド」「銀の三角」「A−A'」「4/4カトルカース」「X+Y」「半神」「マージナル」「イグアナの娘」「バルバラ異界」「スフィンクス」「なのはな」「王妃マルゴ」と年代順に主要作品が並ぶ。ガラスケースの中には花郁悠紀子・波津彬子姉妹に贈ったイラスト(メリーベルやメッシュなど6点)も特別公開されていた。最終コーナーには「ポーの一族」の新シリーズ「春の夢」「ユニコーン」、描き下ろしカラー原画「バラのロンド」もある。会場で流れている「ヴィデオ・インタヴュー」で、「ポーの一族」を連載させてもらえないので、短篇として3作掲載されたところでバレてしまった。キャラクターが一緒ですから(笑)‥‥と、47年前のことを昨日のことのように話すモーさまが菩薩に見えて来た。

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  • ▢ ポーの一族 春の夢(小学館 2017)萩尾 望都
  • 2016年、月刊フラワーズ7月号に第1話が掲載されて大反響を呼び起こした「ポーの一族」40年ぶりの最新作。1944年1月、ロンドンからウェールズ地方アングルーシー島の赤い家に移り住んだエドガーとアランはドイツ人の姉弟ブランカとノアに出会う。エドガーに好意を寄せるブランカ。去年の夏、リヴァプールから来たオットマー家。体を壊して療養中の主人ダン・オットマー、妹のベス、ドーバーで従軍看護婦をしている妻ザブリナ、ブランカとノア(ザブリナの妹ヨハンナの子供)、ブランカの従姉マージ、祖母、車夫アシュトン‥‥。眠りに入ったアランを気遣ったエドガーは1925年のパリ万博で出遭った女装趣味の同族ファルカを呼び寄せる。オットマー家の男たちは代々原因不明の不眠症に罹って発病し、40代で死んでしまう。大老ポー、クロエ、シルバー、サルヴァトーレなど、バンパネラ一族も登場する予想外の展開に血湧き肉躍る。不老不死は「バルバラ異界」でも主要テーマの1つだった。周到に張り巡らされた伏線、繊細な心理描写、凝縮された濃密なストーリ展開など‥‥少女マンガ本来の醍醐味が堪能出来る。

  • ▢ ポーの一族 ユニコーン(小学館 2019)萩尾 望都
  • ブランカを仲間に引き入れた「春の夢」は新たな序章という感じだったが、「ユニコーン」は最終話「エディス」(1976)に直結するエピソードである。2016年、ドイツ・ミュンヘンでファルカはエドガーと会う。1976年、ロンドン古物商の火災で消息を絶ったエドガーは "グールの丘" の地下墓地にある崩れた洞窟の中で眠っていた。怪物(グール)として目覚めた彼はアランの亡骸を抱きしめていた。アーサーの許で回復したエドガーがファルカに会いに来た目的はトランクの中のアランを元の姿に戻すことだった。マリエン広場のカフェで話す2人に辻音楽仲間のダイモンが現われる。ファルカはダイモンを怖れるが、エドガーは惹かれる。「わたしに触れるな」でダイモン、「ホフマンの舟歌」(1958)でミューズ、「バリー・ツイストが逃げた」(1975)でバリーと名乗り、「カタコンベ」(1963)で本名が明かされる、ポーの村から追放された男が「ユニコーン」の主人公である。バリーはアランを復活させられるのか、ポーの村の薔薇畑の地下に拘束された兄フォンティーンは救出されるのか、天敵大老ポーとの全面対決は?‥‥など興味は尽きない。

  • ▢ 少女マンガ講義録(新潮社 2018)萩尾 望都・矢内 裕子
  • 2009年にイタリアのナポリ東洋大学、ボローニャ大学、ローマの日本文化会館で行なわれた萩尾望都の講演会&インタヴュー集。「イタリアでの少女マンガ講義録」では「リボンの騎士」から「大奥」までの少女マンガ史を語り、「半神」「柳の木」「ローマへの道」「イグアナの娘」を例に挙げて自作解説して、イタリア人聴講者と質疑応答する。「少女マンガの魅力を語る」では日本の読者向けに矢内裕子のインタヴューに応える。描くペースやコマ割り、短篇と長編の違いなど、創作法についても詳しく語っている。2017年初夏に行なわれたインタヴュー「自作を語る」では3・11後の「なのはな」「王妃マルゴ」「AWAY」「春の夢」について‥‥「なのはな」や放射性物質3部作を描くことで「自分の精神が保たれた」こと、「ポーの一族」の新作が16頁の番外編として構想されたことなど、興味深い話が聞ける。ジョルジョ・アミトラーノ(Giorgio Amitrano)の「重力のない世界に存在しているような感覚」という指摘も言い当て妙である。

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  • ▢ 芸術新潮7月号(新潮社 2019)
  • 「画業50周年記念大特集 萩尾望都」。サブタイトルに「少女マンガの神が語る、作画のひみつ」とあるように、エドガーとアランの描き下ろし表紙、「オール原画!至福の名作劇場」「アトリエ訪問」、自選年譜「モーさま選り抜きライフ・ストーリー」、「クロッキー帳はイメージの宝石箱」、小野不由美の特別寄稿「神域」、「70's、80's、90's、2000's〜年代別に見る画風の変遷」「タイプ別キャラクター名鑑」、「いにしえの皇女に思いをはせて」抄録『斎王夢語』、「モーさま、ロンドンをゆく」など。「『少女マンガ』の向こうへ‥‥」 と題された特別インタヴューでは、葛飾北斎やピカソ、トーマス・ロレンスの「ランプトンの肖像」やフランツ・アントン・マウルベルチュの「囚われた処女」など「ポーの一族」や「メッシュ」に登場した絵画、コマ割りなどの作画術、植物・風・窓・階段など、お気に入りのモティーフ、アラン・阿修羅王・由良・オスカーなどのキャラクター、東日本大震災〜原発事故後の「グローバル化とマンガの未来」について語っている。

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    萩尾望都 ポーの一族展

    萩尾望都 ポーの一族展

    • 会場:松屋銀座 8階 イベントスクエア
    • 会期:2019/07/25 - 08/06
    • 主催:朝日新聞社
    • メディア:コミック(原画)
    • 展示構成:ポーの一族の世界 / トーマの心臓の世界 / 宝塚歌劇の世界 / 萩尾望都の世界


    ポーの一族(上・下巻セット)

    ポーの一族(上・下巻セット)

    • 著者:萩尾 望都
    • 出版社:小学館
    • 発売日:2019/02/26
    • メディア:コミック(プレミアムエディション)
    • 目次:ポーの一族 / すきとおった銀の髪 / ポーの村 / グレンスミスの日記 / メリーベルと銀のばら / ペニーレイン / リデル森の中 / はるかな国の花や小鳥 / 一週間 / 小鳥の巣 / エヴァンスの遺書 / ランプトンは語る / ピカデリー7時 / ホームズの帽子 / エディス / イラストギャラリー /「ポーの一族」年表


    ポーの一族 春の夢

    ポーの一族 春の夢

    • 著者:萩尾 望都
    • 出版社:小学館
    • 発売日:2017/07/10
    • メディア:コミック(フラワーコミックススペシャル)
    • 内容:永遠の時を生きるバンパネラ(吸血鬼)であるエドガーとアランは、1940年代戦火のヨーロッパ、イギリス郊外でナチスドイツから逃れてきたドイツ人姉弟と出逢う‥‥そして、その出逢いが新たな運命の歯車をまわす


    ポーの一族 ユニコーン

    ポーの一族 ユニコーン

    • 著者:萩尾 望都
    • 出版社:小学館
    • 発売日:2019/07/10
    • メディア:コミック(フラワーコミックススペシャル)
    • 目次:わたしに触れるな / ホフマンの舟歌[前編]/ ホフマンの舟歌[後編]/ バリー・ツイストが逃げた / カタコンベ


    私の少女マンガ講義

    私の少女マンガ講義

    • 著者:萩尾 望都 / 矢内 裕子
    • 出版社:新潮社
    • 発売日:2018/03/30
    • メディア:単行本
    • 目次:イタリアでの少女マンガ講義録 / 少女マンガの魅力を語る / 自作を語る


    芸術新潮 2019年 7月号

    芸術新潮 2019年 7月号

    • 大特集:画業50周年記念 萩尾望都 少女マンガの神が語る、作画のひみつ
    • 出版社:新潮社
    • 発売日:2019/06/25
    • メディア:雑誌
    • 目次:アトリエ訪問 / クロッキー帳はイメージの宝石箱 /「少女マンガ」の向こうへ‥‥ / 軽やかに、しなやかに進化し続ける人 / タイプ別キャラクター名鑑 / いにしえの皇女に思いをはせて / モーさま、ロンドンをゆく / 小野 不由美「神域」/ ...

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