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真夏のアルバム 2019 [m u s i c]



  • それは息の神話なのだ。歌の芸術というものは、息の抑制、息の上手な扱いにあると、歌の教師たちが御宅を並べるのをわれわれは聞いたではないか。息とは pneuma〔気〕であり、ふくらんだり、破れたりする魂である。そして、もっぱら息だけに頼る芸術というものは秘められた神秘的芸術になりやすい(大量生産のLPレコードと同程度に平板化された神秘主義だが)。肺というのは間の抜けた器官だ(猫の餌だ)。ふくらむが、勃起しない。意味形成性が炸裂し、魂ではなく、悦楽を出現させるのは、喉、すなわち、音声の金属が硬化し、輪郭が形づくられる場所においてであり、顔面においてである。フィッシャー=ディスカウにおいては、私には肺しか聞えず、決して、舌、声門、歯、口内壁、鼻は聞えないように思う。パンゼラの芸術のすべては、逆に、文字の中にあって、息の中にはない(記述的な特徴だけについていえば、彼が呼吸するのは聞えない。文字を区切るのが聞えるだけだ)。
    ロラン・バルト 「声のきめ」


  • ◎ Proto(4AD)Holly Herndon
  • 米テネシー生まれの作曲家、ミュージシャン、アーティストのホリー・ハーンダン(Holly Herndon)は3rdアルバムでMat Dryhurst、Jules LaPlaceと共同開発した人工知能(AI)とコラボしている。「赤ちゃん」スポーン(Spawn)と名付けられたAIが学習〜成長する過程で、彼女自らが歌い、演奏するようになったという。アルバム・タイトルの「Proto」は「プロトコル」(Protocol)から採られている。「人間のアンサンブルで作業することを選ぶのは私たちのプロトコルの一部です。人間が舞台裏で自動化される世界に住みたくない」と語る彼女にはテクノロジーの進歩によって、人間性が失われることへの危惧がある。インストやクワイア(讃美歌)、ライヴ・トレーニングなどを挿み、〈Extreme Love〉ではドイツ人現代美術家ジェンナ・ステラ(Jenna Sutela)のテクストをLily Anna Haynesが朗読し、〈Bridge〉では米黒人女性アーティストのマルティーヌ・シムズ(Martine Syms)が自らテクストを引用。〈Godmother〉にはJlinがゲスト参加している。

  • ◎ Schlagenheim(Rough Trade)black midi
  • ブラック・ミディ(black midi)は英ロンドンで結成された4人組。バンド名はMIDIファイルを利用した日本の電子音楽ジャンル「Black MIDI」に由来するという。ポスト・パンク、マス・ロック、クラウト・ロック、ポスト・ハードコアなどのジャンルを超えた彼らの音楽は弾幕系シューティング・ゲームのような「黒楽譜」のアナロジーなのかもしれない。ドイツ語タイトルのデビュー・アルバムは6拍子と5拍子が激しく交錯する〈953〉、人を喰った羊頭狗肉な〈Reggae〉、高速爆走パンクの〈Near DT, MI〉、牧歌的なアルペジオから始まる〈Western〉、爆撃機からの大量投下を想わせる〈Bmbmbm〉など全9曲・43分。デイヴィッド・ラドニック(David Rudnick)のコラージュ・カヴァ(廃棄物の集積)が何か忌まわしいオブジェに変貌するように、black midiの音楽も怪物的なアッサンブラージュとして姿を現わす。CDシングル用プラケース仕様。8つ折り歌詞・ポスター封入。

  • ◎ ∞ Ra ∞(Monteverdi)Andre Mehmari, Bernardo Maranhao, Alexandre Andres
  • 梅雨時にCDリリースされたからか「青い蛙」のカヴァが人目を惹く。アルバム・タイトルの「Ra」はポルトガル語で「カエル」という意味で、歌詞ブックレット(24頁)にもカエルのイラストが多数掲載されている。Andre Mehmari(ピアノ、シンセ、フィドル、フレンチホルン、クラリネット、アコーディオン、バンドリン、琴など)、Alexandre Andres(フルート、ギター)、Bernardo Maranhao‥‥3人連名になったのは2人に歌詞を提供しているBernardoも歌声を披露しているからだと思われる。Andreの〈Proezas de Alexandre〉、Bernardoの〈O Mantra de Miguel〉、Alexandreが「メマーリさん、こんにちは」と日本語混じりで歌う〈Mehmari San〉、Maria Joao Granchaが紅一点の花を添える〈Tanka Do Gato〉‥‥Alexandreの大傑作アルバム《Macaxeira Fields》(2012)を髣髴させる浮游感に包まれる全16曲・64分。昨年クリスマスに配信されたデジタル版「カエル」とはジャケ違いのデジパック仕様です。

  • ◎ Practice Chanter(Le Saule)Leonore Boulanger
  • 仏SSWレオノール・ブーランジェ(Leonore Boulanger)の4thアルバム。Juana Molinaを解体して立体的に再構成したような摩訶不思議な音楽世界。シャンソン、民族音楽、現代音楽などをシュールにコラージュしたアヴァン・ポップ。「Leonore Boulangerというモザイクのもう1つの顔」ジャン=ダニエル・ボッタ(Jean-Daniel Botta)との共作である。「あらゆる声域で、あらゆる言語で、絶えず歌っていることが好き」と語っているように、〈Chant Tomodachi〉は日本語で歌われる。妙に人懐っこくて変幻自在のヴォイスに魅惑される。女性画家クレア・モレル(Claire Morel)の描いたアルバム・カヴァ「箱女」(La boite)も謎めいている。3rdアルバム《Feigen Feigen》(2016)は国内盤もリリースされたので入手しやすかったが、早々に売れ切れてしまったのか都内の輸入レコード・ショップでは高円寺の「LOS APSON?」にしかなかった。全16曲・43分、見開き紙ジャケ仕様。

  • ◎ After Its Own Death/Walking In A Spiral Towards The House(W.25TH)Nivhek
  • Liz Harris(Grouper)《Grid Of Points》(Kranky 2018)は全7曲・22分という短さだったが、Nivhek(ヒンディー語で「ネット」という意味らしい)名義で自主リリースしたアルバムは2部構成(アナログは2枚組)で、タイトルも演奏時間も長い。映像作家のマルセル・ウェーバー(Marcel Weber)とコラボした視聴覚インスタレーションのための音楽で、映像はロシア最北端の都市ムルマンスクで撮影された。「After Its Own Death」というタイトルはマイク・ケリー(Mike Kelley)のエッセイから採られている。インスト・パートが多く、彼女のヴォーカルは少ない。「メロトロン、ギター、フィールド・レコーディング、テープ、壊れたFXペダル(エフェクター)の不明瞭なアッサンブラージュ」と本人が述べているように、アンビエント〜ドローン色も濃い。全13曲・59分、三面デジパック仕様。〈Cloudmouth〉と〈Crying Jar〉の歌詞カード(黒と白の2枚)入り。

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    7月の長雨・冷夏から一転して炎天・猛暑となった令和元年の8月。熱中症で亡くなる高齢者は後を絶たず、急激な気候・気温変化に適応出来ずに体調を崩す人も少なくない。お盆休みには大型颱風10号も日本に上陸した。「夏のクリアランス」も「アウトレット」もなさそうなので、旧譜漁りのレコード店巡りも自重した。今年(2019)は趣向を変えて、上半期にリリースされたアルバムをレヴューすることにした。〈BEST ALBUMS 2019(So Far)〉でリストアップした10枚から、Holly Herndon《Proto》、black midi《Schlagenheim》 、Andre Mehmari, Bernardo Maranhao, Alexandre Andres《Ra》の3枚、7月以降に購入した新譜から、Leonore Boulanger《Practice Chanter》、Nivhek《After Its Own Death / Walking In A Spiral Towards The House》の2枚をピックアップしてみた。いずれも「年間ベスト・アルバム」の有力候補です。

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    • 黒ネコ(写真)の背後に写っている青い網は「カラス除けのゴミネット」です^^;

    • 《Proto》の国内仕様輸入盤(デジパック仕様)は歌詞ブックレット(16頁)付き

    • 《Ra》のアルバム・カヴァに使われているのはRawpixelの「Shrinking frog」です

    • Leonore Boulangerの発言は「月刊ラティーナ 2019年6月号」から引用しました

    • ロラン・バルトの「声のきめ」から引用・追記しました(2019-08-27)
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    Proto

    Proto

    • Artist: Holly Herndon
    • Label: 4AD
    • Date: 2019/05/10
    • Media: Audio CD
    • Songs: Birth / Alienation / Canaan / Eternal / Crawler / Extreme Love / Frontier / Fear, Uncertainty, Doubt / SWIM / Evening Shades / Bridge / Godmother / Last Gasp


    Schlagenheim

    Schlagenheim

    • Artist: black midi
    • Label: Rough Trade
    • Date: 2019/06/21
    • Media: Audio CD
    • Songs: 953 / Speedway / Reggae / Near DT, MI / Western / Of Schlagenheim / Bmbmbm / Years Ago / Ducter

    <atras/alem>

    <atras/alem>

    • Artist: O Terno
    • Label: Tratore Music Brasil
    • Date: 2019/06/07
    • Media: Audio CD
    • Songs: Tudo O Que Eu Não Fiz / Pegando Leve / Eu Vou / Atrás/Além / Nada/Tudo / Pra Sempre Será / Volta E Meia / Bielzinho/Bielzinho / O Bilhete / Profundo/Superficial / Passado/Futuro / E No Final

    ∞ Ra ∞

    ∞ Ra ∞

    • Artist: Andre Mehmari, Bernardo Maranhao, Alexandre Andres
    • Label: Estudio Monteverdi
    • Date: 2019/01/10
    • Media: Audio CD
    • Songs: Dança / Baião de Cohen / Proezas de Alexandre / Sumaúma / Nós Outros / O Mantra de Miguel / Mehmari San / O Nome de Lídia / Festa dos Pássaros / Ligeti Lullaby / Rubrica / Olinda / Tanka do Gato / Juá / Mais Água Mais Luz / Agualuz

    Margem

    Margem

    • Artist: Adriana Calcanhotto
    • Label: Sony Music
    • Date: 2019/07/07
    • Media: Audio CD
    • Songs: Margem / Os Ilheús / Dessa Vez / Lá Lá Lá / Tua / O Príncipe das Marés / Era Para Ser / Ogunté / Meu Bonde

    Practice Chanter

    Practice Chanter

    • Artist: Leonore Boulanger
    • Label: Le Saule
    • Date: 2019/04/19
    • Media: MP3
    • Songs: Le nouveau / La transe de son prochain / Bruyant qu'Brillant / Demain machine / Poème Poème Teltruc sa puissance / Shakespeare le constata / L'eau dans l'eau / Chant tomodachi / Premier Orchestre / Rouler sa tête La montagne / Tout ce siècle qui reste / Gush bédé ba...


    After It's Own Death / Walking In A Spiral Towards The House

    After It's Own Death / Walking In A Spiral Towards ...

    • Artist: Nivhek
    • Label: W.25th
    • Date: 2019/06/21
    • Media: Audio CD
    • Songs: Cloudmouth / Blue Room / Night-walking / Funeral Song / Thirteen (Version) / Crying Jar / Entry / Walking In A Spiral Towards The House / Weightless // Night-walking / Funeral Song / Thirteen / Walking In A Spiral Towards The House

    声のきめ

    声のきめ

    • 著者:ロラン・バルト(Barthes Roland)/ 松島 征 / 大野 多加志(訳)
    • 出版社:みすず書房
    • 発売日: 2018/07/18
    • メディア:単行本
    • 目次:パロールからエクリチュールへ / 物は何かを意味するのか? / 映画について / わたしは影響を信じない / 記号学と映画 /「ヌーヴェル・クリティック」の名のもとに、ロラン・バルトがレーモン・ピカールに答える /『モードの体系』および物語の構造分析について /『モードの体系』/ 一篇の科学的な詩をめぐる対話 /『S/Z』と『記号の国』について / ...

    第三の意味 映像と演劇と音楽と

    第三の意味 映像と演劇と音楽と

    • 著者:ロラン・バルト(Barthes Roland)/ 沢崎 浩平(訳)
    • 出版社:みすず書房
    • 発売日:1998/10/20
    • メディア:単行本(新装版)
    • 目次:写真のメッセージ / 映像の修辞学 / 映画における意味作用の問題 / 映画における“外傷的単位” / 第三の意味 / 映画館から出て / ギリシャ演劇 / ディドロ、ブレヒト、エイゼンシュテイン / 聴くこと / ムシカ・プラクティカ / 声のきめ / 音楽、声、言語 / ロマン派の歌 / シューマンを愛する / ラッシュ / 原註 / 訳註 / 訳者あとがき

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