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ヴェルーカ・サルト [b o o k s]

〈ヴェルーカ・ソルトがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!〉という販宣用パンフの中の記述──その一見風変わりなバンド名の由来を《──これは『チャーリーとチョコレート工場』という童話に出て来る「いつもやかましくて、高飛車な要求ばかりしているお金持ちの娘。親が何でも欲しいものを買ってくれて、物質的にすっごく甘やかされていた女の子」の名前から採ったものとか》と説明している部分に小首を傾げる。その「童話」って『チョコレート工場の秘密』(1964)のことでしょう?‥‥ならば何故そう書かないのか、全く以てフ・シ・ギですねぇ(『チャーリー‥』って原題だし、もしかして英文のプロモ用資料をそのまんま翻訳しただけなの?)。10数年前、英国内のアンケート調査でアリスやプーさんを押さえて少年少女たちの愛読書人気No.1の栄光に輝いたロアルド・ダール(Roald Dahl 1916ー1990)の不朽の名作を、まさか知らない(1度も読んだことがない?)なぁんてことは絶対にないでしょうけれど。

Veruca Saltのアルバム・タイトル 《8 Arms To Hold You》(Outpost 1997)は言うまでもなく《Help!》の「原題」で、それに引っ掛けてスリーヴも紫色の深海で踊る金色の蛸王(タコ・キング)のイラストになっているのは御愛嬌だが──だから冒頭のキャッチ・コピー(《A Hard Day's Night》の邦題パロディ!)が生きる──、中島らも氏の同名短篇(『人体模型の夜』所収)に危うく溺れかけた身としては今さら笑えない。腕が8本なのはVeruca Saltも4人組(男2女2)だから(タコなら足8本、仏語でイカはアシジュポン)。1度に4人のアイドル(男女)に抱きしめられるのは嬉しくなくもないけれど、相手が海中の巨大タコだったら命取り……って殆どネタバレ状態ですよね。後は本を読むなり、CDを聴くなり勝手に愉しんで下さい。

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ワンカ・チョコレート工場で生産されるチョコは世界一。そんじょそこいらのチョコなんか足許にも及ばないほど美味しくて独創性に満ち溢れている。真夏の暑さでも決して溶けない「チョコレート・アイスクリーム」やインドの王子に依頼されて造った「チョコレートの宮殿」など、200種類以上の板チョコを発明したウィリー・ワンカ氏は「チョコレートの魔術師」と称されるほどの有名人(チョコ以外にも、例えば菫の香りのマシュマロや舐めていると10秒ごとに色の変わるキャンディ、いつまで噛んでいても味の無くならないチューインガム等を製品化している)。ところが、ある日突然チョコレート工場が閉鎖されてしまう。ライヴァル会社の産業スパイ達が工員にバケて入り込み、秘密の製法を盗み出したからだ。それ以来世界一大きなワンカ工場の門は堅く閉ざされたまま静まり返ってしまった。

それから何ヵ月も過ぎた‥‥ある朝、工場の煙突から白い煙が立ち昇っているのを、街の人々が発見する。しかし工場の鉄の門は相変わらず閉じたまま、工員の出入りも一切確認出来ないまま、工場の窓に映っている何人もの影、工場内で動き回っている小さな黒い人影(小人?)が多数目撃される。〈チョコレート工場のミステリィ?〉‥‥そんな噂が街中を駆け抜ける中、ワンカ氏が5人の子供たちを工場見学に招待するというプレゼント・キャンペーン──世界中で売られているワンカ製板チョコの包み紙の中に5枚の〈金色の券〉(招待状)が隠されている(しかも一生掛かっても食べきれないほどのチョコと、お菓子の土産つき!)──を宣言したのだから、さあ大変。世界中の子供(大人)たちが我れ先に競ってワンカ・チョコレートを買い求める大騒動に‥‥。

『チョコレート工場の秘密』(評論社 1972)の主人公、チャーリィ・バケット少年の家庭は超ビンボー。4人の寝たきり老人(祖父母)を介護する母とハミガキ工場で働く父の7人家族で、街はずれの小さな木造の家に棲んでいる。父親バケット氏の稼ぎだけでは到底家計は支えられるはずもなく、《みんなの食事といえば、朝はパンとマーガリン、昼は茹でたジャガイモとキャベツ、夜はキャベツのスープだけ》という有り様。そんな極貧生活なのでチャーリィ少年が大好きなチョコレートを食べられるのは年に1度の誕生日にプレゼントされる6ペンスの板チョコ1枚のみ。それも直ぐに食べてしまわず、さも大事そうに少しづつ齧って1ヵ月以上も持たせるという涙ぐましい日々。残りの11ヵ月はワンカ工場から漂って来るチョコの甘い香りを通学途中に門の前で嗅ぐだけの毎日だった。

主人公が赤貧洗うが如き境遇にあるという設定は昔から良くあるパターンだけれど、今日の「老人問題」まで先取りしているところが作者ロアルド・ダールの真骨頂。この原作本『Charlie and the Chocolate Factory』が40年前(1964)に発表されたことを想えば、その先見の明に呆れ返るかもしれません。先進国の英米は兎も角、1964年といえば〈東京オリンピック〉の年、60年代高度経済成長時代の真っ直中で、まだまだ国民の暮らしは貧しかったものの、後に問題化する「肥満児」や「TVっ子」「自己中娘」「我がまま少女」たちが擡頭して来る時代と見事に重なります。R・ダールは、そんな〈現代っ子〉たちに待ち受けているグロテスク極まりない運命──勿論そんな子に甘やかして育てた大人たち(両親)の責任も断乎糾弾されなければなりませんが──を痛烈に活写して行きます。まるで、この本自体が1枚の「猛毒チョコ」でもあるかのように。

ゴールデン・チケットを引き当ててワンカ工場の見学に招待された幸運な(?)5人の少年少女たち──チャーリィ少年を除く4人の問題児たちに就いても触れておこう。1番最初の当選者オーガスタス・グルーブ(9歳)は食べることだけが唯一の趣味の、醜く肥満した大食漢。2番目に当たったヴェルーカ・ソルト(翻訳版では「ベルーカ・サルト」と表記)は金持ちの両親に甘やかされて育った、欲しいものは何でも直ぐに手に入れないと気が済まない超ワガママ娘。3番目の幸運児バイオレット・ボールガードは日がな1日中ガムをクチャクチャと噛み続けているヘンクツ少女。そして4番目のマイク・ティーヴィは名前の通り、玩具のピストルを携えたカウボーイ気取りのTV狂のギャング小僧。彼らに一体どのような運命〜末路が待ち構えているんでしょうか?

父母同伴の子供たち一行を引き連れて工場内を見学案内するワンカ氏。お菓子で出来た食べられる樹々や草花で覆われた小森を想わせる「チョコレート室」、美しい谷間を流れる褐色の川、途中から大きな滝になって険しい岩壁から泡と水飛沫の沸騰する渦巻きの中に落下して行く「チョコレートの川」、ワンカ工場で働かせるために遙々アフリカから密かに連れて来たピグミー族〈ウンパ・ルンパ〉、口の中で舐めても舐めても決して溶けることのないキャンディや毛生えキャンディなど新製品を研究開発している「発明室」、豪華ディナーを丸ごとフルコース(トマト・スープ、ロースト・ビーフ、ブルーベリ・パイ)堪能出来てしまう究極のチューインガム食を製造する「ガム製造機」、角砂糖そっくりのピンクの顔をした(眼が動く!)「四角い甘菓子」、100匹のリスたちが大きな丸テーブルを囲んでベンチに坐り只管胡桃の殻を剥いている「クルミの部屋」、チョコレートを瞬時にTVの中へ転送する縮小テレポート装置(瞬間物質転送機)のある「TVチョコレート室」‥‥次から次へと紹介される奇想天外〜阿鼻叫喚の「驚異の部屋」(発明品)の数々は、ちょっと『ロクス・ソルス』(1914)のジュヴィナイル版を想わせなくもない。

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深夜枠でTV放映された『夢のチョコレート工場』(1970)はR・ダールの原作を忠実に映像化したものだった。以前に同じ作者の『Matilda』(1996)という超能力少女が大活躍する映画を観た時の印象も、お子さま向けとは言え一切の手抜きなしに再現された〈ダールの世界〉を愉しんだ記憶と共に甦って来た。特にナチの将校みたいなデブ大女校長の存在感は圧倒的で、今でも脳裡に焼き付いている(トラウマ化?)。《チョコレート工場》の方も、ウィリー・ワンカ氏──原作では黒いシルクハットと干し葡萄色の燕尾服、深緑色のズボン、真珠灰色の手袋、片手に金飾りの付いたステッキを持った小男と描写されている──を演じた青い睛のジーン・ワイルダーが光っていたし(工場の敷地内を門へ向かって杖を突きながらゆっくりと歩いてくる、原作にはないファースト・カットが秀逸!)、本編中に挿入されるウンパ・ルンパ族の歌のパートがミュージカル形式になっているのも洒落ていた。

原作本との変更点は──〔1〕バケット家が母子家庭だったこと(母親が働きに出ているので更に家計は逼迫している)〔2〕新たに付け加えられたシナリオ「産業スパイの誘惑〜陰謀」の伏線と結末(オチ)〔3〕チャーリィ少年とジョーおじいさんが「特製ソーダ水」を飲んで空中浮游してしまう重要シーンの追加〔4〕「クルミの部屋」の顛末の削除(流石に100匹のリス君たちの映像化は難しかったらしい)‥‥。若干の相違は見られるものの「ガラスのエレヴェータ」が飛び出すラストまで丁寧に再現されている。この映画を観て氷解した疑問が1つあった。原作を読むのは今回で確か3〜4回目だが、何時の間にか表紙のイラストが変わってしまって長い間不思議に思っていた。ハードカヴァー本の表紙って、映画のキャラクターたちの姿を忠実に擦ったものだったんですね。この作品が日本で「劇場未公開」だったなんて信じられますか?

一般には余り知られていないことだが『チョコレート工場』には続編が存在する。『ガラスのエレベーター宇宙にとびだす』(評論社 1978)というタイトル通りに工場の屋根を突き破って大空に飛び出した〈ガラスのエレヴェータ〉が宇宙へ出て大活躍する、前作に輪を掛けたクレイジーでハチャメチャな冒険譚。お間抜けなNASA宇宙飛行士3人組や低能軽薄な米大統領たちに加えて、クニドという兇暴&コミカルなエイリアン(宇宙怪獣)までもが出現する異常事態。前作では登場する機会の少なかった父母や、ベッドの中に置いてきボリを喰わされた「寝たきり老人」3人も究極の若返り薬ビタ・ワンカ/パラ・ビタワンカを飲んで大事件に発展‥‥。『チョコレート‥‥』に比べると少々悪ノリ気味のスラップスティック風SFですが、興味のある方には一読(再読?)を勧めます。

悲惨な末路を辿った4人の子供たちの名前に就いても少し考察してみよう。デブの大食漢オーガスタス・グループ(Augustus Gloop)はチョット謎(Glopは食欲をそそらない不味い粥状の食べ物のこと)。バイオレット・ボールガード(Violet Beauregarde)はブリーベリの副作用で全身が紫色に変色してしまう運命と、変身後の彼女の躰(Ball)を暗示している。TVおたくのマイク・ティーヴィ(Mike Teavee)も文字通りTVの名が入っていて一番分かり易い(Mikeには「怠け者」の意味もある)。問題のヴェルーカ・ソルト(Veruca Salt)は作中でワンカ氏も言及しているように、ヴェルーカ(Verruca)は「疣」、ソルト(Salt)は言うまでもなく「塩」の意味だが、訳者の田村隆一氏が敢えて「サルト」と訳していることを考え合わせるとSaltation(踊ること・跳躍)の意味を込めているのかもしれない。つまり「イボ・タコ」→「蛸」の連想から、ヴェルーカ・サルトとは「タコ・踊り」の意味であり、Veruca Saltのアルバム・ジャケが踊るタコキングのイラストになっていた理由も、これでやっと頷ける。ひょっとしてグループ名(ソルトは誤訳?)から《8 Arms...》というタイトルを逆に発想した可能性も高い。

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  • 〈ヴェルーカ・サルト〉が1000pvを越えました。愛読ありがとう^^ (200712/16)

  • 《チャーリーとチョコレート工場》公開以前に書いた文章を加筆・改稿しました。ティム・バートン版は未見ですが、柳瀬訳本の「イボダラーケ・ショッパー」はどうかと思うよ。敢えて和訳するなら「オードリィ・タコビッチ(踊るタコ娘?)」

  • 12/29の更新予定でしたがblog読者へのXmasプレゼントということで、急遽24日にアップロードすることにしました

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Eight Arms to Hold You

Eight Arms to Hold You

  • Artist: Veruca Salt
  • Label: Outpost
  • Date: 1997/02/11
  • Media: Audio CD
  • Songs: Straight / Volcano Girls / Don't Make Me Prove It / Awesome / One Last Time / With David Bowie / Benjamin / Shutterbug / The Morning Sad / Sound Of The Bell / Loneliness Is Worse / Stoneface



チョコレート工場の秘密

チョコレート工場の秘密

  • 著者:ロアルド・ダール (Roald Dahl) / 田村 隆一(訳)/ J・シンデルマン(絵)
  • 出版社:評論社
  • 発売日:1972/09/10
  • メディア:単行本
  • 目次:チャーリー登場 / ウィリー・ワンカ氏の工場 / ワンカ氏とインドの王子さま / 秘密の工員たち / 金色の券 / はじめにあたった2人の子 / チャーリーのお誕生日 / 金色の券が、また2枚見つかった / ジョーじいさんの賭け / 飢える家族 / 奇蹟 / 金色の券に...



夢のチョコレート工場

夢のチョコレート工場

  • Maker:ワーナー・ホーム・ビデオ
  • Date:2006/10/06 (Low Price Release !)
  • Media:DVD