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グーだってレコである(1 9 9 0) [r e w i n d]



  • 一羽のコウノトリが砂漠を北にむかって飛んでいました。彼は喉が乾いていたので、水のある場所を探そうとしました。カン・エル・ガールの山並みまで来ると、峡谷の底に池があるのが見えます。鳥は岩と岩の間を潜り、水辺に舞い降りました。それからおもむろに池のなかへ足を運ぶと、水を飲みました。/ そのとき一匹のハイエナがのろのろと歩いてきて、コウノトリが水のなかに立っているのを見て、いいました。「遠くから来たのかい。」コウノトリはそれまでハイエナというものを見たことがありません。「うん、これがたぶんハイエナという奴だな」と彼は思いました。それからずっと動かず、ハイエナから目を逸らしませんでした。ハイエナがひとたび一滴でも自分のおしっこを引っかけてしまうと、どんな者でもハイエナの後に従って、彼の思うがままの場所へ連れ去られてしまうという話を聞いていたからです。/「もうすぐ夏だね」とコウノトリ。「ぼくは北へ行く途中なのさ。」こういいながら彼は池のさらに深いほうへ足を運び、ハイエナから遠ざかろうとしました。
    ポール・ボウルズ 「ハイエナ」


  • ◎ OUT OF THIS WORLD(Sire / Reprise 1989)Dissidenten
  • Dissidenten(ドイツ語で「反体制派」という意味)は、Fried Josch(フルート、ヴォーカル)、Marlon Klein(キーボード、ドラムス、ヴォーカル)、Uve Mullrich(ギター、ベース、ヴォーカル)から成るベルリン出身の3人組。中東や北アフリカ、インドなどの現地ミュージシャンと共演することで新しい非西欧音楽の可能性を追求している。モロッコのミュージシャンとコラボした本アルバムは、いわゆる打ち込み系のテクノ・ビートとアラブ音楽の融合を目指したワールド・ミュージック。硬質なデジタル・ビートにモロッコ国立管弦楽団の濃厚なストリングス、パーカッション、アコーディオン、ウード、マンドリンなどの生楽器とアラビックな節回しのヴォーカルが絡む。無意識に躰が動き出すダンス・ミュージック、血湧き肉踊るエキゾチックな高揚感で熱くなる。後に「反体制派」のメンバーとなる美少年Hamid Baroudi君も2曲でソロ・ヴォーカルを披露。ポール・ボウルズの「ハイエナ」(The Hyena 1960)を引用したブックレットからも、「モロッコ」を強烈に印象づけるアルバムでもある。

  • ◎ THE WONDER(Fontana)Tom Verlaine
  • 満月の夜に解散を決めたという逸話もあるTelevisionの中心人物、Tom Verlaineの6thソロ・アルバム。歌詞やミュージシャンなどの記載がないので詳細は不明だが、プロデュースとミックスでTom Verlaineと共に名を連ねている元同僚のFred Smithがベースを弾いているはずである(非公式サイトによると、Jimmy Ripp(ギター)やAndy Newmark(ドラムス)が参加しているという)。Jim Morrison〜David Bowie系の自己陶酔型耽美派とパンク〜ニューウェイヴの鼻持ちならない自己嫌悪が入り混じったヴォイスにクリア・ハイ・トーンの痙攣ギターが加わると、Tom Verlaineとしか言いようのない摩訶不思議で稀有な音楽が立ち現われる。ノコギリ・ギターが堪能出来る〈Ancient Egypt〉、ファンク風の〈Shimmer〉、レゲエ調の〈Storm〉‥‥殆どの曲は気味悪い笑いを残して消え去るチェシャ猫のように、皮肉っぽい歪みを残してフェイド・アウトして行く。「The Wonder」というTelevisionのサイトもあるくらいだから、Tom Verlaineの代表作の1枚に数えて良いのではないかしら。

  • ◎ GOO(DGC)Sonic Youth
  • 米インディーズの象徴的存在だったSonic Youthのメジャー移籍後初のアルバム。今日ではArcade FireやVampire Weekendのようにインディ・レーベルに留まることで大成功を収めるバンドが出現するようになったものの、当時(90年代)はメジャー進出という幻想が罷り通っていた。NirvanaやBeckもメジャーと契約してアルバムをリリースするようになる。2008年にインディーズに戻るまでの18年間のメジャー時代はセールス面でも成功したとは言い難いけれど、レイモンド・ペティボン(Raymond Pettibon)の白黒イラストを使った《Goo》は面目躍如たるものだった。〈Dirty Boots〉や〈Disappearer〉などThurston Mooreのヴォーカル曲だけでなく、Kim Gordonのリード・ヴォーカル曲も際立つ。拒食症で死亡したカーペンター妹に捧げた〈Tunic (Song For Karen)〉は辛辣なPVを視るまでもなく、Kim姐さんの押し殺した怒りで彩られている。疾走感溢れる〈Kool Thing〉、別ユニットのFree Kittenにも通じる〈My Friend Goo〉や〈Cinderella's Big Score〉‥‥。〈Mildred Pierce〉の後半で爆発するThurston Mooreの咆哮はリスナーが、このアルバムを受容出来るかどうかを左右する「試金石」でもある。

  • ◎ VARIATIONS SUR LE MEME T'AIME(Polydor)Vanessa Paradis
  • スキッパ・パラディの2ndアルバムは晩年のSerge Gainsbourgが歌詞を書いている(作曲はFrank Langlff)。タイトルが示唆する通り色々なタイプの楽曲が収録されているが、いわゆるフレンチ・ポップスからは逸脱している。土臭いスライド・ギターが砂埃を舞い上げるオープニングの〈L'Amour A Deux〉やノイジーなギターが纏いつくミドル・テンポの〈L'Amour A Deux〉などを挙げるまでもなく、ロック色が濃い。天性のロリータ・ヴォイスに彩られた〈Flagrant Delire〉や〈La Vague A Lames〉にも「ロック」という筋金が入っている。レニクラが全面プロデュースした《Vanessa Paradis》(Remark 1992)が60年代ポップスを模したレトロ風のアルバム(トリップホップを採り入れた曲のタイトルが〈The Future Song〉という趣向)だとしたら、2ndアルバムにはレイドバックした70年代の匂いがある。ラストに入っている〈ワイルド・サイドを歩け〉のカヴァが種明かしをしているような気もする。裏ジャケはアンティークな椅子に坐ってネコを抱いているヴァネッサちゃん。これが表カヴァだったなら!‥‥と悔しがった「猫ジャケ」蒐集家も少なくない?

  • ◎ BARBES(Nord Sud)Rachid Taha
  • Carte De Sejour(居住許可証)というバンドを率いていたRachid Tahaのソロ・アルバムはアラブ版Joe Strummer(The Crash)という感じ。「バルベス」(パリ18区内の移民居住区)という直截的なアルバム・タイトルがアルジェリアからの移民であることを主張している。2ndアルバム以降、Steve Hillageがプロデュースするようになってから軟弱化したのではないかと思わせるくらい強烈なデビュー・アルバムである。Cheba Noria(ヴォーカル)と共演したトラディショナル〈Lela〉、アラブ気触れしたTalking Headsみたいなファンク〈Arab Rap〉‥‥後者と〈Confiance〉のダブ・ヴァージョンを含む全12曲・59分余り。Dissidentenが外部からの非西洋音楽へのアプローチだとしたら、Rachid Tahaは内部から矛盾を抱え込んだまま突き上げる。彼の中で伝統的なアラブ音楽と欧米のロックが葛藤しているのだ。ある作家がバイリンガル(帰国子女)の自己は2つに引き裂かれていると書いたように、Rachid Tahaのアイデンティティも分裂している。アラブ・ロック野郎の長い旅は《Tekitoi》(Wrasse 2004)に結実するけれど、Don Wasにプロディースしてもらった方が早道だったのではないか。それとも遠回りする必然性があったのだろうか。

  • ◎ FROM THE SECRET LABORATORY(Mango)Lee "Scratch" Perry
  • 赤地に白十字のスイス国旗がはためくアルプス山脈(?)を背景に、右手にバトンのような王笏、左手に宝珠を持ち、王冠を戴き赤マントを羽織った貧相な老人が金色の額縁の中に収まっている。レゲエ〜ダブの革新者Lee "Scratch" PerryのアルバムはAdrian Sherwood (ON-U Sound)との共同プロデュース。トロピカルで気怠いレゲエとジャングルの底なし沼に足を捕られてズブズブ沈み込むダブと妙に人懐っこい「王様」のヴォイスに1度ハマると中毒性が高くて、なかなか抜け出せない。P-FUNK軍団を率いるGeorge Clinton「統帥」の変態ファンクみたいに‥‥。〈African Hitch-Hiker〉〈You Thought I Was Dead〉〈Too Much Money〉‥‥など、コミカルで人を喰ったようなタイトル曲もある。この当時(1990年)で既に伝説の人物だったが、20年以上経った現在(2011年)でも「現役」というのだから驚きです。やっぱりガンジャ(Ganja)の効果でしょうか。「オフィシャル・サイト」にもマリファナが‥‥。

  • ◎ UK BLAK(RCA)Caron Wheeler
  • グラウンド・ビートで一世風靡したSoul II Soulの歌姫Caron Wheelerのソロ・アルバムのタイトルは「UK BLACK」の「C」が抜けている。「黒人」という言葉が差別的であるという批判に配慮して、「アフリカ系英国人」などと当たり障りのない言葉に言い換えているようだが、たとえば「ホームレス」「認知症」「適応障害」‥‥という外来語や医学用語に置き換えても、「浮浪者」や「ボケ老人」や「鬱病患者」が社会から消えた失せたわけではない(言葉狩りの皆さん、「UK BLAK」を何と訳せば良いのでしょうか)。エコーやディレイを切った残響のないリズム・セクションにストリングスやシンセが優雅に浮游する最新流行のサウンドは革新的であるがゆえに数多くのフォロワーに真似されて瞬く間に色褪せてしまった。オープニングの〈UK Blak〉に続いて、ラストに収録されている〈Living In The Light〉のリミックスを挿入するコンセプト・アルバム風の構成。バラードの〈Don't Quit〉やレゲエの〈Jamaica〉〈Proud〉、アカペラ多重唱の〈Somewhere〉などがあるとはいえ、Soul II Soulの路線を踏襲したソロ・デビュー・アルバムになっている。

  • ◎ NOWHERE(Creation)Ride
  • 東日本大地震の後では、隆起した海面が迫り来る大津波を連想させて恐怖感さえ感じられるアルバム・カヴァ‥‥英オックスフォードで結成されたシューゲイザーのデビュー・アルバム。当時の日本では「シューゲイザー」という音楽用語は一般に流布していなかったはずである。文字通り自分の履いている靴を見つめながら演奏するスタイル。空間をノイズで覆い尽くすギター・サウンドと霧の彼方から聴こえて来る弱々しい独白のような内省的なヴォイスはリスナーを内面世界へと誘う。20年の月日を経てネオ・シューゲイザーと呼ばれる一派が擡頭して来たのも、時代が巡り巡って一回りしたことの証左だろう。それはヘッドフォンで両耳を覆って(外界音を遮断して)、外出する若者たちのライフ・スタイルとも重なる。シューゲイザーに鬱屈した青年の「原型」を見い出すのは大袈裟すぎるだろうか。〈霧の8マイル〉みたいにサイケデリックな〈Seagull〉、ノイズ・ギターが覚醒を促す〈Dreams Burn Down〉‥‥ラストの〈Nowhere〉が波の音とカモメの鳴き声で終わり、オープニングの〈Seagull〉に舞い戻る趣向も凝っている。20周年記念の「コレクターズ・エディション」(Rhino Handmade 2011)もリリースされたばかりです。

  • ◎ PILLS'N' THRILLS AND BELLYACHES(Factory)Happy Mondays
  • 英マンチェスター出身の6人組はBezという演奏しないで踊るだけのメンバーがいることでも話題になったように、ダンス・ミュージックを標榜する。Shaun(ヴォーカル)& Paul (ベース)のRyder兄弟を中心としたバンドだが、何よりもMark Dayのグルーヴ感溢れるサイケデリックなギターがカッコ良い。Labelleのヒット曲〈Lady Marmalade〉のコーラス部分を大胆に引用した〈Kinky Afro〉(この1曲で殺られちゃう)など、茶目っ気もたっぷり。スライド・ギターが畝り捲る〈God's Cop〉や技巧的なリフを駆使する〈Grandbags Funeral〉など、Happy Mondaysはロックよりもソウルやファンク、R&Bなど、ブラック・ミュージックからの影響が大きい。Shaun Ryderのヴォーカルはクールで籠る内向性を秘めている。バンド名に反して余り愉しそう(ハッピー)ではないのだ。Factoryレーベルには似つかわしくないバンド名だが、もしかしたら〈Blue Monday〉を意識した「反語」なのかもしれない。子供向けの菓子の包装紙をコラージュした「オリジナル・カヴァ」は米国メーカーからのクレームで平板なデザインに変更されてしまったという。

  • ◎ FUNK OF THE AGES(Gramavision)Bernie Worrell
  • P-FUNK軍団の「音楽監督」とも呼ばれるインテリ・キーボード奏者のソロ・アルバムには今までのキャリアや人脈を生かした多彩なゲスト陣が集結している。Keith Richardsがギターを弾く〈Y-Spy〉。Bootsy Collinsがベースとギターを弾き、Maceo Parkerがサキソフォンを吹く〈Funk-A-Hall-Licks〉、トークボックスやHarbie Hancockのシンセが変態的に響く〈Ain't She Sweet〉。Sly & Robbieのレゲエ〈Real Life Dream〉。Micheal HamptonのギターやDavid Byrneのヴォーカルが聴けるスカの〈Sing〉。Phoebe SnowとGary Cooperのリード・ヴォーカル、Jerry Harrisonのキーボード、Chris Speddingのスライド・ギターなどによる〈Don't Piss Me Off〉。Maceo Parkerのサックス、Vernon Reidのヘヴィ・ギターが炸裂するインスト・ロックの〈Beware Of Dog〉。Bill Laswellのプロデュースした2曲はBernie Worrellのハモンドの音色も優雅で、コンテンポラリー・ミュージックの香りがする。ラストは〈Real Life Dream〉のダブ・ヴァージョン。ちなみに現在流通しているアルバム・カヴァは「オリジナル盤」とは異なる。

                      *
    • 輸入盤のリリース〜入手順

    • 個人的な年間ベスト・アルバム10枚を1年ずつ遡って行く〔rewind〕シリーズです

    • タイトルは大島弓子の『グーグーだって猫である』(角川書店 2000)のパロディ、ポール・ボウルズ「ハイエナ」は『優雅な獲物』(新潮社 1989)から引用しました
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    Goo

    Goo

    • Artist: Sonic Youth
    • Label: Geffen
    • Date: 1990/06/15
    • Media: Audio CD
    • Songs: Dirty Boots / Tunic (Song For Karen) / Mary-Christ / Kool Thing / Mote / My Friend Goo / Disappearer / Mildred Pierce / Cinderella's Big Score / Scooter + Jinx / Titanium Expose


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