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蟹が出て来た日(1 9 9 4) [r e w i n d]



  • 承博士が疾患の原因をほぼこの細菌と考え、仮に蟹甲癬と名づけたこの連鎖球菌が嫌う物質を発見しようとして研究している最中、患者の一部の者が自分の頬の甲羅を自由自在に取りはずしたりもとヘ嵌めこんだりしていることが判明し、またもや大騒ぎになった。これをいちばん最初にやりはじめたのは市のはずれにひとりで住んでいて日中は他の連中とウラニウム鉱山で働き、日没後は海へ出て残り少ないクレール蟹を漁るという日課をくり返していたロドリゲス爺さん。ある夜頬の蟹甲癬をいじくりまわしているうちにぱっくりと甲羅がはずれ、頬に楕円形の穴があいて奥歯と歯茎がまる出しになってしまった。びっくり仰天した爺さんが大あわてで鏡を見ながらなんとかもと通りに甲羅を嵌めこもうとして周囲の皮膚をつまんだり引っぱったりしていると、今度はぴったりともとに納まった。コツさえわかれば簡単に取りはずしできることを知った爺さんが、近所の子供たちの人気を得ようとして腕白小僧連中を集めこれをやって見せているうち、母親が騒ぎ出した。「やめてください」「グロテスクです」「子供たちにあんなものを見せるなんて、悪趣味だわ」
    筒井 康隆 「蟹甲癬」

  • 大蔵省に勤めてゐる小田氏は子供の頃から蟹が嫌ひであつた。蟹に限らず、足が八本とか十本とかあつてその足をそれぞれ動かして這ひ歩く異形の動物を嫌悪した。従つて蜘蛛も蝦も、また大概の昆虫も嫌ひだつたが、中でも蟹に対しては異常なほどの嫌悪と恐怖心を抱いてゐた。その理由は、子供の頃、近所の悪餓鬼共に襟首から生きた蟹を入れられて恐慌を来した余りに小水を失禁した経験があるからである。爾来そのことは記憶に封印して触れないやうにしてゐる。また蟹を忌避すること甚だしいといふ性癖も人には言はないやうに注意してゐる。といふのはかの悪戯をされたのも日頃蟹を恐れてゐるのを悪餓鬼共が知つてのことだつたからである。四十代の半ばに小田氏は大蔵省からある国立大学に籍を移した。当時、同期の仲間の中には政界に出る者が二、三あつて、それがエリート官僚の反乱などと取沙汰されたりしたが、小田氏は別の道を選んだ。実は、それについては人に言へない事情が介在してゐたのである。
    倉橋 由美子 「革命」

  • ◎ LAGRIMAS(PE 1993)Dulce Pontes
  • イタリアのAliceやギリシアのHaris Alexiouなど、女性歌手にアンビエント〜プログレ風の衣裳を纏わせるのは90年代ヨーロッパの潮流なのだろうか。ポルトガルのDulce Pontesの2ndアルバムもフェアライトを使った洗練されたサウンドとエモーショナルなヴォイスの組み合わせが化学反応を起こしている。ブルガリアン・ヴォイス風、ケルティックのクラナド風‥‥深淵から湧き上がって来る深層水が霧に覆われた幻想的な湖面に漣を引き起こす。興味深いのは彼女が最新デジタル楽器フェアライトだけではなく、ヴォコーダを操っていること。Zapp/Rogerの変幻自在のヴォイス(トーク・ボックス)ではなく、ずっと控え目で奥深いバック・コーラスで使う程度なのだが、「深窓の令嬢」風のアルバム・カヴァ(写真)と下世話なヴォコーダの取り合わせが王女とヒキガエルの恋愛みたいで容易には結び着かない。24歳(1969年生まれ)で、これだけ深みのある歌が歌えれば文句のつけようがないでしょう。「ファドの新星現わる」という感じです。

  • ◎ LIVE THROUGH THIS(DGC)Hole
  • Kurt Cobainの猟銃自殺直後という微妙なタイミングでリリースされたHoleの初メジャー・アルバム。「美人コンテスト」に優勝したCourtney Loveの歓喜の表情を捉えたスナップ写真(Ellen Von Unwerth撮影)なのにも拘わらず、映画『キャリー』のクライマックス・シーンを連想してしまうのはリスナーが動揺していたからかもしれない(アルバム・タイトルも、これから起ころうとしている惨劇を暗示しているようで怖い)。オリジナル10曲+カヴァ1曲(Young Marble Giants)。Kat Bjelland(Babes In Toyland)との共作曲が〈I Think That I Would Die!〉というのも意味深に響く。デビュー・アルバム《Pritty On The Inside》(Caroline 1991)と比較すると、唯一の男性メンバーEric Erlandsonのギター・パフォーマンスが後退して、楽曲(ソングライティング)の完成度が高まった(収録曲の殆どはKurt Cobainが書いたという噂を否定出来ないくらいに!)。Courtney Loveの聴き手を包み込みながら同時に突き放すような歌唱も魅力的だ。1994年6月、Holeは新加入した女性ベーシストのKristen Pfaffを薬物のオーヴァードース(過剰摂取)で失った。

  • ◎ KUMQUAT COMBAT(Strange Ways)Dharma Drums
  • Rolf Kirschbaumを中心とする独3人組は2人のメンバーがブラスとリード奏者(他の楽器はすべてRKが担当)という変則的なトリオ。RKのヴォイスによる〈Control Signal〉とインスト曲を除き、1曲ごとに異なるゲスト・ヴォーカルを迎える趣向が洒落ていて、ちょっとWas (Not Was) を想わせなくもない。エキセントリックなスキャットの〈Ma Chere〉や、ロリータ・ヴォイスの〈Pursy Punch〉など、女性ヴォーカリストはクレイジー。8分に及ぶ〈Someone's Callin' My Name〉の男性ヴォーカルはJohn Lydon (PIL) みたい。フリーキーなブラスやリードにRKの痙攣ノイズ・ギターが絡むだけでも充分にスリリングであることを〈The Voice Off...〉が証明している。ラストの独語ラップ調の「ナポリ民謡」は変態ファンクに聴こえる。オレンジ色の果物が犇めき合っている「アルバム・カヴァ」は女の子が飛びつきそうなデザインだが、「キンカン・コンバット」というタイトルを知った後では、緑色の葉の白いギザギザが凶暴な歯に見えて来る。正月に食べた葉っぱ付き金柑の甘苦い後味が口腔内に広がります。

  • ◎ DA LAMA AO CAOS(Chaos)Chico Science & Nacao Zumbi
  • ブラジル北東部レシフェのマングローヴから突如出現した新種の蟹?‥‥Chico Science率いる8人組CSNZのデビュー・アルバムはヒップホップ / ラップの肉体(脳味噌?)とファンクの甲殻とハード・ギターの鋏で出来ている。CSの葡語ラップは泡立ち滑らかで舌鋒鋭く、ファンクは強靭で堅牢、ハード・ギターもヘヴィで切れ味鋭い。ヒップホップ / ラップ、ファンク、ハード・ロック、スラッシュ・メタル、ダブ、マラカトゥ‥‥などを自在にミクスチャーしたマンギビートは「未来世紀ブラジル」を予見させて血沸き肉踊る。打ち込みやサンプリングに頼らない生演奏主体のサウンドも、他人の褌で相撲を取るような安直な小手先芸ではなく、ヒップホップの手法が血肉化していることを証明している。アナーキーな暗黒空間を漂うような浮游ループ感‥‥プロデューサLiminhaの手腕も見逃せない。その将来を嘱望されたCSは2ndアルバム《Afrociberdelia》(1996)完成後、1997年2月2日に交通事故で他界した。

  • ◎ SLEEPS WITH ANGELS(Reprise)Neil Young & Crazy Horse
  • 4年振りのCrazy Horseとの共演盤は、「グランジ・アルバム」として好意的に迎えられた《Ragged Glory》(1990)から一転して、翳りのある内省的なアルバムになっている。弱弱しいRobert Wyattみたいなピアノ弾き語りの〈My Heart〉や、生気に欠ける青春讃歌の〈Prime Of Life〉。アルバム・タイトル曲の〈Sleep With Angels〉はKurt Cobainの自殺後に書かれたことでも有名(遺書にNeil Youngの歌詞が引用されていた!)。14分にも及ぶ大作〈Change Your Mind〉、〈Blue Eden〉、〈Safeway Cart〉‥‥と続くパートの暗鬱なギター・トーンがアルバムの色調を決定づけている。「with Crazy Horseで」はなく「and」になっていること、CD盤面に70年代のRepriseレーベル(クロムイエローではなく、アルバム《Tonight's The Night》(1975)に使用されたという黒レーベル)が使われていることにも、何か特別な意味が隠されているのかもしれない。〈Piece Of Crap〉はパンク・ナンバー、カントリー調の〈Western Hero〉と〈Train Of Love〉の2曲は歌詞違いの異名同曲である。

  • ◎ VERDE ANIL AMARELO COR DE ROSA E CARVAO(EMI)Marisa Monte
  • ローズ色に彩られたイラスト・カヴァが華やかな3rdアルバム。英語タイトルは《Rose & Charcoal》だが、原題には緑や黄や青色もある。Carlinhos Brown、Marcos Suzano、Chico Neves、Gilberto Gil、Celso Fonseca、Bernie Worrell、Philip Glass、Laurie Anderson‥‥リオとNY、Marisa MonteとArto Lindsay(prod.)の人脈を生かした豪華絢爛たるミュージシャンたち。Carlinhos BrownやNando Reisとの共作曲やLou Reed、Paulinho de Viola、Jorge Benjorなどのカヴァ曲、Bernie Worrellのハモンド・オルガン、Gilberto Gilのギター(violao)、Laurie Andersonのヴォイスなど、聴きどころも少なくない(Arto Lindsayのノンチューニング・ノイズ・ギターは封印されている)。レコーディングに参加していないArnardo Antunesの〈Alta Noite〉と共作曲〈Bem Leve〉が傑出している。Marisa Monteの可憐さ、楽曲の良さ、アレンジの巧みさが光るアルバムでもある。歌詞と伴奏用のコード付き。

  • ◎ SAMBA ESQUEMA NOISE(Banguela)Mundo Livre s/a
  • ツンのめるようなビート、ノイジーなギター、乱れ打つドラム‥‥それこそが「マンギビート」なのだと宣言する〈Manguebit〉(「Manguebeat」は音楽メディアによる通称)。CSNZと共にマンギビートを牽引したMundo Livreのデビュー・アルバムである。Fred 04(Zero Quatro)率いる5人組はヒップホップ〜ファンク寄りのCSNZよりもロック〜ワールド・ミュージック色が濃い。たとえば、CSNZのデビュー・アルバムにも収録されていた〈Rios, Pontes & Overdrives〉と同一タイトルの曲は全く別の曲(前者は典型的なマンギビートだが、後者は一転してレゲエ〜ダブ空間を彷徨う)だったことからもChico Scienceと04、2人の盟友関係と2つのバンドは同じではないという04の気概が感じられる。卓越したラッパー〜ヴォーカリストという面ではCSに一歩譲るけれど、04にはギターという強力な武器がある。躰の一部にIC基盤を埋め込んで小型4弦ギター(cavaquinho)と一体化したような04の姿はサイバーパンク化した未来人にも見える。

  • ◎ STRANGERS FROM THE UNIVERSE(Matador)TFUL 282
  • 汚いものを洗い流す、躰を洗って浄める、シャワーを浴びるといった清冽なイメージの奔流が、この上もなく美しく心地良い〈Cup Of Dreams〉── 短い電子音、長い反復から成るギター・イントロ〜主メロディ〜マッチョな男声コーラス〜主ヴォーカル(その背後で繰り返される「ビックリ箱」から飛び出したみたいなホッピング音、何かがコロコロ転がるような音、驚く男の声、アブク音などのサンプリング・コラージュ・ループは少年時代のセピア色に褪色した遠い記憶のカレイドスコープを覗いているようで、妙に懐かしく何度聴いても涙が零れそうになる)〜サビ〜後奏──は単独でも「名曲」に間違いないないのだが、その前に挿入された〈Pull My Pants Up Tight〉という僅か59秒の「断片」から通して聴くことで2曲は化学反応を起こし、より増幅・拡大した至福感を産み出す。そのことは余韻を愉しむという意味で〈Cup Of Dreams〉の次に置かれたインスト〈The Oxenmaster〉にも当て嵌まり、それは同時に次の曲の〈The Operation〉の前奏として機能する。

    TFUL 282という閉じた球体は「岸辺のない海」のような超自然的な、この世のものとは思えない異界から降り注ぐ一雫のメッセージ(凸面鏡の歪んだ像を映す)のようにも思えて来る。〈Socket〉という「感電ソング」は次のように歌われる──幼い頃、壁のコンセントに触れて「失神」し、生死の境を彷徨う(天使たちと一緒に歌を歌った)。しかし背中に羽の生えた天使たちはコソコソと鳩首協議を開いて「まだ死ぬには早い(何か手違いがあったらしい?)」と告げ、下界へ舞い戻す。気がつくと、そこは病室で(口や鼻を)チューブや計器類に繋がれている自分を発見する。医師たちは、どこにも異常は見当たらないと診断を下すのだが、味覚も嗅覚も全く感じられず、殆ど目も見えない‥‥。最終節のセンテンス── 「And sleep is my worst enemy」に留意して欲しい。〈February〉という曲では逆に「Sleep is better」と歌われるからだ。貴重な「臨死体験」の真偽のほどは措くとしても、その時の「後遺症」で奇天烈なロック・バンドを組み、ウィアードな曲を歌うようになったと受け取れなくもないところが無性に可笑しい。

  • ◎ SEX IS FOR MAKING BABIES(DSA)God Is My Co-Pilot
  • ライヴ盤《Tight Like Fist》(Knitting Factory 1993)のアルバム・カヴァは超エロかったなぁ‥‥特にピンクCDの下に隠されている透明トレイ越しの写真が!‥‥という話は兎も角、God CoはSharon Topper(ヴォイス)とCraig Flanagin(ギター)の2人を中心とするパンク、ノイズ、エクスペリメンタル、フリー・ジャズ、ローファイ・バンド。先のライヴ・アルバムが全29曲、本作が全24曲という収録曲数からも推察出来るように、1分前後の曲も少なくない。初期衝動はパンクだと思うけれど、直線的な激情型の発露ではなく鋭角的なジグザグ模様を描く。指先が痙攣して直線が引けない前衛画家のように。アルバム・タイトル曲はフリーキーなドラムスとクラリネットの演奏をバックにSharon Topper嬢が「sex is for making babies」と早口言葉のように繰り返すだけの曲(1分弱)だが、途中で彼女は笑い出してしまう。「結婚という形式が子供を作るわけではない。セックスが子供を作るのだ」と記者会見で発言して芸能レポータを絶句させたのは後藤久美子だった。

  • ◎ DOPE DOGS(Hot Hands 1995)Parliament, Funkadelic & The P-Funk Allstars
  • George Clinton総帥が率いるP-Funk軍団 ── Parliament、Funkadelic、The P-Funk Allstarsが合体したアルバム。リード・ギターにEddie Hazel、Michael Hampton、Gary Shider、Dewayne McKnight (Blackbird)、ベースにBootsy Collins、オルガン&シンセにBernie Worrell、ホーンにMaceo Parker‥‥など、お馴染みの幹部クラスが勢揃い。〈Atomic Dog〉の2匹目のドジョウを狙ったのか、〈Dog Star〉〈Lost Dog〉〈Dopy Dope Dog〉‥‥とワンワン・ソングが続く。〈Lost Dog〉にはBobby Gillespieがゲスト・ヴォーカル参加。〈All Sons Of Bitches〉では〈Atomic Dog〉を自家サンプリングして薬籠中に。メンバーは重なっていても、Parliamentはソフィストケートされたファンク、Funkadelicはロック寄りというイメージも、このアルバムで吹き飛んでしまう。EU盤は先行発売された国内盤(P-VINE 1994)やUS盤と収録曲が異なる。全14曲75分47秒‥‥踊りすぎに注意してね!

                       *
    • ◎ 輸入盤CDのリリース〜入手順

    • 個人的な年間ベスト・アルバム10枚を1年ずつ遡って行く〔rewind〕シリーズです

    • TFUL282は〈宇宙からの訪問者〉から再録(一部改稿)しました^^
                       *





    Da Lama Ao Caos

    Da Lama Ao Caos

    • Artist: Chico Science & Nacao Zumbi
    • Label: Sterns
    • Date: 2000/01/12
    • Media: Audio CD
    • Songe: Monologo Ao Pe Ado Ouvido / Banditismo Por Uma Questao de Classe / Rios, Pontes & Overdrives / A Cidade / A Praieira / Samba Makossa / Lama Ao Caos / Maracatu De Tiro Certeiro / Salustiano Song / Antene Se / Risoflora / Lixo Do Mangue / Computadores Fazem Arte


    LagrimasLive Through ThisKumquat Combat




    Sleeps with AngelsRose and CharcoalSamba Esquema Noise




    Strangers from the UniverseSex Is for Making BabiesDope Dogs
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