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終わらない夏(2 0 0 1) [r e w i n d]

  • ◎ ESTAMOS ADORANDO TOKIO(Net)Karnak
  • 未来世紀ブラジルの変態音楽集団Karnakの3rdアルバムはタイトルに「東京」を読み込み、ジャケ・スリーヴの金皿に「東京タワー」を刷り込む。CDトレイでは東南アジア観光客に扮した内藤剛志(?)がカメラを構えているという風に、日本の音楽ファンを狙い撃ちした怪作になっている。だからといって表層的なジャパネスクに堕しているわけではない。ケベック、モントリオール、ミズーリ、ジャマイカ、スペイン、アフリカ、イスタンブール、バハマ、ペルー‥‥と列挙される世界各国・都市名。《追突事故で炎上し、少なくとも18人が死亡しました》という女子アナの日本語ニュースが唐突に引用される〈Estamos Adonando Tokio〉は完璧なサルサである。怪しげな変則ロシアン・ポルカに始まり、レゲエ、マラガシ、ファンク、ラップ、グランジ、フォーク、パンク、アラビック・ドラムンベース、変態ヒップホップ‥‥と続く。流石に11人は大所帯すぎたのか、今作は7名に人員整理されて、ワンワン(犬)もメンバーから外れたけれど、全17曲74分の大作となった。

  • ◎ THE RED THREAD(Chemikal Underground)Arab Strap
  • デビュー作《The Week Never Starts Round Here》(1996)にはカードが1枚、2nd《Philophobia》(1998)には分厚いブックレット‥‥と一筋縄ではないスコットランド産デュオの4thアルバム。メジャー移籍作《Elephant Shoe》(1999)は失敗だったと思わせる出来である。引きこもりのTom VerlaineみたいなAidan MoffatのヴォイスにMalcolm Middletonの奥行きのあるサウンド・スケープ。深夜に聴いていると陰々滅々たる気分に陥るけれど、それが一種の快感だったりもして。炎に包まれた黒い馬のスリーヴ(「赤い糸」で編まれたタペストリー?)はロジェ・ヴァディムが撮った『黒馬の哭く館(メッツェンゲルシュタイン)』のイメージでしょうか。『バーバレラ』のジェーン・ホンダは可愛かったですね。そう言えば、デビュー作に〈Kate Moss〉という曲が入っていました。

  • ◎ ENDLESS SUMMER(Mego)Fennesz
  • 「終わらない夏」──1年中常夏の第3新東京のようなレトロ・フューチャーな日常と超現実的な暴力世界。2001年の夏の終わりの心象風景としてのFennesz。海面をオレンジ色に染める夕焼け空。夏の思い出にメジャー7thコードの甘い響きは良く似合う‥‥なぁんて感傷的な気分に浸ってしまうのは、恐らく思春期にインプットされたポップ・ソングのメロディ──実際はヴァーチャルな擬似的なノスタルジーに過ぎないのだが──が甘酸っぱい記憶と共に甦って来るからだろうか。「♪Soft wind's blowin' in the summertime...」と歌い出される甘く切ない「失恋ソング」と共鳴するからだろうか。しかし現実は記憶の中のようには甘くなかった。酸鼻な灼熱と紅蓮の炎、峻厳な重力に晒された「世界の終わり」に否応なく直面させられることになったのだから。「閉ざされた冬」──Bjorkの呈示した雪と氷の美しい結晶世界とFenneszの「終わらない夏」は同義だった。

    現実世界は実に多彩なノイズ(自然・人工)に満ちている。「絵画」や「文学」はノイズという夾雑物を新たな手法──「混合技法」や「意識の流れ」(他者の発する言葉は意味を剥奪された雑音としか主体に認識されない)として取り入れて来たのに、現代音楽を除く「音楽」は無菌室の純粋培養実験室みたいに不快なノイズを排除して来た。高感度のピックアップが拾ってしまうスクラッチ・ノイズというハード自体の外因的な要素があったとしても、余りにも潔癖すぎた。ノイズ成分を完全に消し去ってしまったCD時代になって初めて、あれ程までに忌み嫌っていたノイズが懐かしく甘美に響くことになろうとは‥‥。作為的にノイズを入れることでCDを汚す。インダストリアル・ノイズがサブミナル効果のように作用する。かくしてデジタル時代のノイズは擬似ノスタルジーを喚起させる必須アイテムとなったのである。Fenneszのグリッチ・ノイズは寡黙な青年の呟きなのかもしれない。《Endless Summer》は9・11以降の世界に、もう1つの原風景を付加することになる。メランコリックな夕焼け空が、燃える炎と血の海のメタファになったのだ。

  • ◎ FLOW(Noisolution)Foetus
  • Scraping Foetus Off The Wheel名義で鮮烈デビューしたJim FoetusことJG Thirlwellはインダストリアル・ミュージックの貴公子。すべての楽器を1人で演奏するマルチ・プレイヤーである(Princeとは方向性が全然違うけれど)。初のメジャー作《Gash》 以来6年振りのニュー・アルバムは1曲目の〈Quick Fix〉こそ従来のフィータス印のサウンドだが、〈Cirrhosis of the Heart〉は〈マシュ・ケ・ダナ〉を引用したサンバ、〈Heuldoch 7B〉はビッグ・バンド風ジャズ。暴走する騒音マシンを想わせる〈The Need Machine〉、映画音楽風オーケストレーションの〈Suspect〉、6拍子ブギの〈Victim or Victor ?〉。長尺曲の〈Mandelay〉や〈Kreibabe〉は圧倒的な破壊力でリスナーの耳を切り裂く。

  • ◎ VESPERTINE(One Little Indian)Bjork
  • 《Vespertine》は不思議な親和力に満ち溢れている。今までの外部への執拗な攻撃・破壊性は暴風後の凪のように影を潜め、Bjorkの新たな冒険は内面ヘ向かう。いつの間にか、どこか人間離れした近寄り難い存在になってしまった彼女は、昆虫が完全変態の過程で「蛹」になるような劇的変貌を遂げつつあるらしい。内向性と言っても、それは自閉症的な「引きこもり」でも、自らを傷つける行為でもなく、むしろ逆に親密な、Bjorkという「繭」に包まれる──彼女の中に溶け込む──幸福感、溶解した彼女に覆われる快感と表現した方が相応しいのかもしれない。「私の傍に近寄るな!」と周囲を威嚇していた頃がウソみたいに、緊迫した敵対関係にあった自己と他者との軋轢が魔法のように払拭されて溶けて行く。自分の内面に降りて行くことで、思い懸けず外部に出てしまうパラドックス。

    恰も独房の囚人が密かに「抜け穴」を掘って脱走するように、秘密の「隠れ家」が世界の至る所に遍在しているように、プライヴェートな夢が集合的な無意識として普遍性を獲得するように、個人の内部と不特定多数の他者という外部──それは1人1人の無数の内部でもあるのだが──がトポロジカルに通底し、両者間の距離や障碍は限りなくゼロに近くなって融和する。信じられないことだが、摩天楼の氷の階段を降りてBjorkの方から歩み寄って来たのだ。夢みる少年少女の眠りをハープやオルゴールやデジタル・ノイズが優しく愛撫する。口の中に入った雪が溶けて、呑み込んだ内服液が喉や胃に沁み渡ると同時に主体たる躰が反転して溶け出す。男女の個体間の距離や輪郭が消滅して1つになる永遠の一瞬。失われた記憶を再生し、傷ついた肉体を恢復するための安息日。解体と再構築を繰り返すサイボーグ戦士の束の間の午睡。美しい「繭」から飛び出て来る時、サイビョーク(Cybjork)は一体どんな姿に変身しているのだろうか。

    《Vespertine》の限定盤は紙ジャケ(ゲートホールド)仕様 、《Medulla》はSACD / CDハイブリッド盤(紙ジャケ限定とジェルケースの2種)、《Volta》は2枚組(CD+DVDオーディオ)‥‥と、アーティスト(レコード会社) 側の都合でフォーマットがコロコロ変わってしまうのは困ったことである。旧作のデュアル・ディスク盤(CD+DVD)はCDプレーヤで再生出来なかったり、DVD面に傷が付く恐れもあるらしい。《Vespertine》は見開き左スリットに2つ折りの歌詞カード、右に紙ケース入りのCDが収まっている。日本国内の紙ジャケ・ブームを尻目に、一部の輸入アナログ盤(WilcoやShellac)には同内容のCDがオマケに入っていたりする。アナログ重量盤と聴き比べてみろということなのか、それとも「紙ジャケCD」を買うなという裏メッセージかしら?

  • ◎ SEGUNDO(Blabla)Juana Molina
  • モンロー、マドンナ、ナブラチロワ、キム・ゴードン‥‥白人女性でも天然ブロンドの人は案外少ないらしい。ヘアダイも何色か使って斑状に染めないと自然な「金髪」にならない。Juana Molinaの髪は天然パツキン風ですね。金髪に覆われた横顔に惹かれてジャケ買いしちゃいました。アルバム・タイトルの「セグンド」は2ndのこと。「アルゼンチン音響派の歌姫」というコピーは、このアルバムから生まれた。Suzanne Vega風にプロデュースされたデビュー作《Rara》(MCA 1996)は本人にとって不本意だったみたい。だから倉多江美の自画像みたいなギャグ顔だったのかな?‥‥3rdは鼻高高慢女のシルエット、4thはメルヘン風のイラスト少女‥‥と、なかなか素顔を見せたがらない人ですね。某CDショップのインストア・ライヴに行って間近で見たことがあるので、彼女の容姿は知っていますが‥‥。

  • ◎ SILVER SORGO(Interdisc)Spinetta
  • Caetano Velosoにも似た中性的なヴォイスが瑞々しい。メジャー7thのメロウなオープニング曲、流麗なハチロク(8分の6拍子)、婉然なるバラードと続く。良い気分に浸っていた健全なリスナーを4曲目後半の「音跳び」(不良CD?)が奈落の底に突き落とす。オーソドクスなロック基本形態なのに、澄み切った空気の中の陽光に煌めきのように、その存在を際立たせる。夢見がちな午睡の陶酔感と青空に突き抜ける覚醒感の混淆。曖昧な身体と鋭敏な意識の交錯。消滅する肉体と粟立つ精神の反転。「魔術的レアリスム」と「音楽」の幸せな邂逅。魔術師は銀色のコロシアムで意識だけの存在に奇抜な衣裳を着せてロマンチックな「寸劇」を演じさせる。孤独な青年の白昼夢の続きみたいに‥‥。この世界は美しい。人間の存在が美しいのではなく、人間の想像した世界が美しいのだ。2002年にリリースされたライヴ盤《Obras En Vivo》には本作から2曲、PVやリミックス・ヴァージョンも収録されているが、白眉はGeorge Harrisonの追悼カヴァー〈Don't Bother Me〉でしょう。ちょっと胸が詰まってしまいました。スピネッタは髪の毛を何色に染めているのだろうか。

  • ◎ VOZVOIXVOICE(MCD)Tete Espindola
  • 女性ヴォイス・パフォーマーのアカペラ・アルバム。何回も重ね録りしたTete Espindolaのヴォイスをベースがサポートする。歌唱、声色、効果音、スキャット等の7変化ヴォイスが驚異的!‥‥1人ブルガリアン・ヴォイスに挑戦した〈Indiu〉、英国議事堂時計塔(Big Ben)鐘の音を模した〈Pelicong〉、熱帯の野鳥や動物たちの鳴き声を交えた〈Trompe L'Oeil〉、幻想的なサウンド構成が素晴しい〈Ararinha Azul〉、Kate Bushがアカペラでタンゴを歌ったような〈Arabian Tango〉、圧倒的なヴォイス・パフォーマンス3部作の〈Autant D'Amour〉、スキャットの〈Conte Goutte〉や〈Baiaoriental〉、天然童女と狂少女を行き来する〈Five O'Scope〉‥‥。アカペラ版のケイト・ブッシュと呼んだ方が分かり易いのかな?

  • ◎ FEMINIST SWEEPSTAKES(Chicks On Speed)Le Tigre
  • EU盤が独3人娘のレーベルからのリリースされていることからも分かるように、ライオット・ガルー(Riot grrrl)〜エレクトロ・ポップ系のトリオ「虎ちゃん」の2ndアルバム。 元Bikini KillのKathleen Hannaを中心にした女性トリオだったが、メンバーが1人抜けた後にJD Samsonが加入して男女混成バンドになった。K. Hannaのヴォイスは可愛いけれど、歌われている内容は辛辣だったりする。〈LT Tour Theme〉は文字通りのテーマ・ソング、〈Shred A〉はエレクトロ・ロカビリー、〈Fake French〉はファンク、〈F.Y.R.〉はパンク‥‥ドラマー不在のユニットなので、ヒップホップ色も強い。Free Kittenの義妹的な存在でしょうか。同じ「猫科」ということで贔屓にしています。

  • ◎ INSIGNIFICANCE(Domino)Jim O'Rourke
  • 木製の椅子に坐っているピンク下着のオヤジ、その椅子の脚に紐で繋がれたアヒルの玩具。Jim O'Rourkeも『またたび浴びたタマ』(2000)の愛読者だったのか!‥‥友沢ミミヨ画伯の描く「ボイン男」に脱力です(カツラも脱いだ、恥ずかしい全裸姿でタコ野郎に犯されちゃうのだ!)。1曲目からロック全開、2曲目はワルツ、5曲目はフォーク、7曲目は変則6+4拍子‥‥比較的長めの曲が続く。最後にオルークらしいアヴァギャン・ノイズもあるけれど、オーソドクスな「歌もの」アルバムである。WilcoのGrenn Kotche(ドラム)とJeff Tweedy(ギター)の参加が、後のヘン顔トリオLoose Furを生む。《僕はミミヨさんのキュートな(っていうか)絵のファンで、いつか一緒に仕事をしたいとずっと思っていたので、その機会を持つことができてとても嬉しかったです》(村上春樹)。

                        *

    • ◎ 輸入盤リリース→入手順 ● Compact Disc規格外のCCCDは除外しました

    • 個人的な年間ベスト・アルバム10枚を1年ずつ遡って行くリワインド(rewind)・シリーズの2001年版です

    • アルバムのリンク先は米Amazon.com、記事下のサムネイルはAmazon.co.jpにしていますが、該当商品や画像のない場合は、その限りではありません。アーティストは公式サイトかWikipedia(English)にリンクしました

    • フランス組の2枚──Little Rabbits《La Grande Musuque》とNoir Desir《Des Visages Des Figures》は敢えて外しました。興味のある方は〈ローズ・セラヴィ〉を参照して下さい

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    Endless Summer

    Endless Summer

    • Artist: Fennesz
    • Label: Mego
    • Date: 2001/07/03
    • Media: Audio CD
    • Songs: Made In Hong Kong / Endless Summer / A Year In A Minut / Caecilia / Got To Move On / Shisheido / Before I Leave / Happy Audio


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    コメント 4

    モバサム41

    あれ、なんでサイドに「バベル」が張ってあるの?
    こちらは、ドアーズがらみでハクスリーの「知覚の扉」と「ブレイク詩集」(天国と地獄との結婚)、ソフト・マシーンがらみでバロウズの「ソフトマシーン」手に入れましたよ。
    ま、読んでる暇ないんでいつ記事にできるかわからないけど…
    ジム・オルークは、武満とコラボした「コロナ―東京リアリゼーション」を買ったけど、記事にしようがなくて持て余してます(笑)
    とりあえず、旧譜の「ユリイカ」でTBしておきます。
    by モバサム41 (2007-07-07 21:48) 

    sknys

    モバサム41さん、コメントありがとう。
    遅くなりましたが、やっと「パティ・スミス詩集」を読了!
    ‥‥‥というわけで、『バベル』をサイドに貼りました^^

    実は旧Z司ヶ谷図書館のリサイクル市で、
    『ブレイク詩集』(平凡社ライブラリー)を貰って来たところです。
    バロウズは「サンリオSF文庫」で買ったはず(5桁の値段が付いている?)。

    ヘンなジャケ(Jim O'Rourke)を見つけないで下さい^^;
    せっかく上品に記事を纏めたのに‥‥。
    by sknys (2007-07-08 02:50) 

    yubeshi

    ヴェスパタインが出てからもう6年も経つんですね。
    集合的無意識&トポロジカルの部分、妙に納得しました。これって内省的なアルバムに共通して言える事なのかもしれませんね。
    ちなみに、新作はsknysさん的にはどうでした?
    by yubeshi (2007-07-08 09:01) 

    sknys

    yubeshiさん、コメントありがとう。
    2001年はポピュラー音楽にとっても重要な年だった。
    ボルヘス風に言えば「9・11が《Vespertine》に与えた影響」
    ということになるかな?

    《Volta》の評価の別れ目はAntonyの参加でしょうか^^;
    ‥‥実は苦手でしたが、タルコフスキー・ネタのデュエット曲は奥が深そう。
    新作はワールド・ミュージックの原色が爆発していますね。

    観音開きジャケしか出回っていないのが唯一の不満です^^
    限定&通常盤(ジェルケース)の2種類を同時に流通させて、
    リスナーが好きな方を選べるようにして欲しい。
    by sknys (2007-07-09 00:29) 

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